『悩みについては、その性質を知り、対処する』
のっけから話はだいぶ飛ぶ。
第一次世界大戦の折、
ドイツ軍の潜水艦が猛威をふるった。
名をUボートといえば、思い当たる人がほとんどだ。
元々はドイツで潜水艦全般をあらわす言葉だが、多大な戦果をあげた為、第一次大戦から第二次大戦で生産されたドイツ軍・潜水艦をしめすようになった。
当然、それに対抗すべく連合国のあいだでも潜水艦の開発がはじまる。
あるアメリカ人青年、仮に名前をマイクとするが、
マイクが配属されたのは、この初期設計段階の潜水艦だった。
※この話は有名であり、デール・カーネギーの著作などにも載っているので、さらに詳しく知りたい方は参照されたい。
潜水艦を舞台にした映画は多く、ご存知の方も多いと思うが、
潜水艦とは、陸海空・全軍のなかでも最低の、劣悪な環境といわれている。
まして潜水艦の初期となれば、推して知るべしである。
一か月のあいだ、水浴びすらできず、定期的にノミとり粉を股間や脇の下にかけ、
ビタミン不足で壊血病になる。
臭いは運動部の部室どころではない。
汗、糞尿、腐った食べ物。
激烈だ。
寝床は上体を起こさず、畳1枚に2人が寝るスペースしかなく、寝返りもうてない。
マイクはそのような潜水艦に配属された。
軍属になる前のマイクは、若いながらも人生に絶望していた。
どんな仕事をやってもうまくいかず、友達もできない。
低賃金でヘトヘトになるまで長時間働いても、生活するのがやっと。
そしてかれは、人生において決してやってはいけない【なんとなく】で参戦を選択した。
厳しい訓練を終えた初出動の日、かれの乗った100人乗りの潜水艦は、
運悪く、敵の駆逐艦に発見されてしまう。
当時、おおよそ深度500~600メートルで発見されれば、100%の撃沈率と
いわれていたなか、
マイクの乗る潜水艦が発見されたのは深度200メートル。
絶対絶命の浅さだった。
一切の物音が許されないなか、海底で息をひそめるマイクら乗組員たち。
駆逐艦の投下する機雷の爆発音が、近くなったり、遠くなったり、ズズン、ズズンと艦を揺らす。
当時の潜水艦は非常にもろい外殻であり、直撃せずとも、わずか20メートル先で機雷が爆発すれば、艦は沈む。
薄い鉄の壁一枚へだてたむこうの、おそるべき水圧がひたひたと感じられる。
冷たく、暗く、酸素のない世界だ。
1時間、2時間とすぎても、敵が去る気配はなく、機雷の音が響きつづける。
そのあいだ、マイクら乗組員たちは死の恐怖に耐えつづけた。
次の一発、いやその次の一発で大穴があき、海水がなだれ込んでくる。
その鮮明すぎる映像が、爆弾が響くごとに眼球にうつる。
ようやく敵があきらめ、去っていったのは、12時間を過ぎたころだった。
マイクら乗組員は死の海底から生還したのだ。
マイクはほどなくして除隊、故郷にもどり、ふと、あることに気づいた。
いままでの自分の悩みが、かけらもなくなっていたこと。
あの地獄の12時間が、自分の人生をまったく変えてしまったこと。
自分は、いままでなんというちっぽけなことで、悩んでいたのか。
いったいなぜ自分で自分を苦しめていたのだろうか。
なぜ、とるにたらないことで絶望していたのか。
マイクはその後、会社を興し、大成功をおさめる。
ひるがえってわたしたちにおきかえたい。
マイクの中で、いったいなにが変わったのだろうか。
あるひとつの悩み、その大きさはだれにとっても変わらないという話がある。
ではなぜそれで、いっぱいになってしまう人と、受けとめられる人がいるかといえば、
それは、器の大きさがちがうからだ。
こたえはここにある。
マイクの中でなにが変わったのか。
それは器だ。
器が大きくなったのだ。
器についてもまた、深く論じる書物もなければ、身につけるための教育体系もなく、
(正確には、「あるのだがまったくとりあげられることがなく」)
わたしはここを明確にして、世を去りたいとおもうが、
さまざまな書物を読み、さまざまな方と話をしてきたところ、器を大きくする要素は3点ある。
それは、広さ、高さ、深さである。
器はこの三つの視野でみねばならないのだが、これはまた長くなるので、別の機会に語りたい。
マイクの器に起こったのは、広さの広がり、そして深さの深まりである。
(器について気になる方は、拙記事の『価値観とは位置を把握する力』も参照されたい)
『価値観とは位置を把握する力』 — 『人を活かす言葉』
『価値観とは位置を把握する力』 この話は有名で、デール・カーネギーの著作などにもおさめられているが、 1930年代の、アメリカのある主婦の話をしたい。 彼女は、ごく普通の家庭に育つが、不幸にし
悩みには性質がある。
対処法もある。
性質を知ることで、対処法もわかる。
対処法がわからないから、悩みはおそろしい。
悩みについて知らないことが多いから、人はおおいに不安をおぼえ、避けたいと拒み、むやみやたらに目をそむけてしまう。
(昔は雷の原理がわからず、恐ろしかった。だから雷の神様を創造し、神様がやっているとした。未知→恐怖の対象。既知→恐怖ではない)
悩みについては、現代以降、先々でおおきな社会問題になるだろうから、おりおりでとりあげたいが、
悩みというのは、視野の狭い人、視野の低い人に、好んでとりつく、そんな性質もある。
マイクのような体験をすることで、悩みを消す方法は現実的でないが、
悩みというものの性質を知ることが、まず対処への第一歩となる。
マイクの例を読むだけで、悩みにはひとつ、強くなれる。
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