『価値観とは位置を把握する力』

『価値観とは位置を把握する力』

この話は有名で、デール・カーネギーの著作などにもおさめられているが、
1930年代の、アメリカのある主婦の話をしたい。

彼女は、ごく普通の家庭に育つが、不幸にして、早くに夫と幼い子供を亡くしてしまう。
友人に相談しても、両親に相談しても、身を裂くような苦痛は癒えず、
なぜわたしだけが、こんな苦しい目にあわねばならないのだろうと、
毎日、泣き暮れる。

夫と子どもになんとしても会いたいという思いは、
カウンセリングを受けても、仕事に打ち込んでも、
薄れていかない。

そうしてとうとう絶望の果てに、12月、クリスマスもちかくなった深夜、
彼女は家を捨て、雪の中をふらふらとあてもなく、さまよいだす。

どこにきたのかも、もはやわからないが、ふと気がつくとどこかの田舎にいて、
おんぼろの教会が目の前にある。

さそわれるように中へ入ると、5歳くらいの男の子と3歳くらいの女の子が
祈りをささげている。

深夜に小さな子が二人でいることが気になり、話しかけると、
「このあいだ病気で死んだお父さんとお母さんが、天国にいけるように祈ってるんです」
と兄がこたえた。

そこで、彼女は気づく。

この子たちと違い、じぶんは、両親に愛された幸せな子ども時代を過ごしたこと。

両親に受けた愛情、その恩をまだ返していないこと。

いまどれほど、わが両親が自分のことを心配しているだろうということ。

また亡くなった夫の両親も、悲しんでいるだろうこと。

そうして彼女は、その子どもたちをひきとり、
痛みを抱えながらも、幸せに暮らしたそうである。

自分より不幸な人間を見つけることによって、救われたという話ではけっしてなく、
人はその価値観によって、不幸にも幸福にもなるという話だ。

彼女の夫と子どもが亡くなった事実は、家無き兄妹に会う前と会った後で変わらないが、
彼女の心境・幸福感は、劇的に変わった。

 これが価値観というもので、価値観とはこれほどまでの大きな力をもっている。

だが価値観についてはこれもまた、良い方向にもっていく技術体系といったものが、世の中のどこにもない。

よって、今回は価値観について、わたしが知り得たことを書きたい。

価値観を良い方向にもっていくには(便宜上、強くする、高めるなどと表現するが)、はじめに基礎として、世の中に無数の価値観があると知る必要がある。

これが最大の前提条件だ。

ものごとすべての善悪をはっきりさせたいのは人の本性なのだが、
「世の中はそう単純でないという真実」
これを実感することだ。

いうまでもなく、世の中は清濁をあわせもつ。

清濁ある世の中を自然とするか、不自然とするか、
これについては、だれにもこたえは出せていないが、
この世界を二元論の価値観で乗りきろうとする人は、おおいに苦労することになる。

二元論とは以下の価値基準で、価値観を強くする方向から、大きく遠ざかる。
すなわち、
正か悪か。
この人は自分に合うか、合わないか。
敵か、味方か。

いうまでもなくこの世界には、立場による視点の違いが無数に存在している。

厳然と存在しているのだから、その「無数の視点が存在できること」を理解できないと苦しい。

勘違いしてはいけないが、すべての価値観と共感せよという話では決してなく、
世の中には、この、世界を理解する中心である自分が、まったく理解できなかったとしても、そのような考え方は存在しているという話だ。

たとえば、わたしは泡が大嫌いで、世界から泡が無くなればいいと本気で思っているが、わたしがどれだけ祈ろうと、泡は世界に無数に存在しているし、泡には有用な働きもたくさんある。
泡が存在できるか否かは、わたしの好き嫌いと関係がない。

そういうことだ。

この、あいいれない存在が存在していることを理解できる力が、価値観を強くするはじまりとなる。

そのうえで、つぎの力として

「正とも邪とも一概にいえないことだらけの世の中で、自分の考えはどこに位置しているか」
これを把握できる力がつづき、

また「把握したうえで、どうふるまうべきか、決断する力」が、そのつぎの力となっていくが、これらふたつの段階は、また別の機会に語りたい。

この三段階を経て、
「価値観が未熟でない」としてよいと思う。

これからの世を生きるに、この力がたいへん重要になってくるとわたしは考えている。

卑怯な人がいて、すばらしい人がいて、
それだけでもなく、そもそも一人の人間の中にも素晴らしいところと愚かなところ、
光と影がある。

自分の悲しみに悲しみ、自分の喜びに喜ぶ。

それは人の生まれもつサガだが、自分だけを見つめる価値観は、目が曇る。

人の悲しみを悲しみ、人の喜びを喜ぶ、
すなわち価値観が豊かである、そんな人の未来が明るい。
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