すこしまえ、財布を落とした。
ひさかたぶりで味わう、あの嫌な感じである。
落としたとわかりつつ、
家に置いてきたかも、いやバッグの底かもと、可能性を潰していく。
でも、ない。。
時刻は夜9時。
遠くから遊びに来てくれた小学三年生の長女が隣におり、
「ちと時間は遅いが、本とアイスでも買って帰ろうか」なぞと、
理想の父のセリフをのたまわったばかりだった。
失敗した手品師のように、汗をかきながら全身をパタパタするわたしを見て、
長女が不安げに「本、買えないの?」と上目遣いに聞いてくる。
(↑こんな感じ)
頭の中は、
「いやいや、本どころじゃなくてね、
キャッシュカードにクレジットカード、現金○万円、
そうそう運転免許証って無くすと厄介なんだよ。しってる?
まてよ、会社のセキュリティカードも2事業所分もっていた。
こいつはイカンぞ」
といったところだった。
だが生来のんびり屋なところもあって、
『上に立つものは、迷いや不安、焦りなどをみせるべきではない』
そう会社でいつも言ってるじゃないか、などと、
格言めいたことを思い、自分を落ち着かせた。
夜の街を長女と手をつなぎ、散歩をよそおいながら、
血走った眼で道路をながめ、往復する。
一度、、、、、、二度。。。。。
ない。。
手があせばんでベタついてくる。
「もし見つかってもさ、お金なくなってるかもね」とわたし。
心がダメージを負わないように、予防線を張っている。
すると、「そうなんだ。からっぽなのかもね」と長女の軽い返事。
やっぱり、ない。
とうとう自力での捜索をあきらめ、警察へいった。
すると、、、、、、、
「届いてますよー」とおまわりさん。
財布無くしたくらいで、おたつかないぞと思っていたのはどこへやら。
この安堵感といったら、おどろくほどで、
自分の器がミジンコ級だとあらためて思い知った。
だがまだ油断はできない。
中身がそのままとは限らない。
日本が貧しくなっていると言われているこのご時世。
半分くらいは残っているか、いやいや全部空っぽと思えと、
次なるショックにそなえて、気を張った。
「はいどうぞ」
手続きを終えて、中をあけると、、、、、、
全部ある。。。。
そのまま。。。
手つかず。。。
うそ。。。。
けっこう入ってたよ。
1万円くらい抜かれてもいいくらいには入ってたよ。
探索中の小一時間で、
社会は暗いとか、貧しいとか、世の中は冷たいとか、
いろいろ世をななめに見ていた自分に、
大反省。
本当に、穴があったら入りたかった。
そこで言いましたとも、ええ。
「拾った方にお礼がしたいんですけど! この素晴らしきかたに!」
すると、おまわりさんは言いました。
「個人情報のアレで、教えるのダメなんです」
まじか。。
この恩を返さねばならない熱い気持ちは、どこへもっていけば?
おまわりさんが言いました。
「もしあなたが財布を拾ったら、そのまま届けてください。
それが巡りめぐって、その人のもとに、なにかの形で返りますから」
もう涙が出そうになりました。。
小学生の長女を横に、じぶんの醜い姿と、世の中の温かさを見せつけられ、
おおいに感謝し、おおいに反省しました。
もっともっと有名にならないと、この話はその方には届かない。
でもいまは、この場を借りて言いたい。
名もなきヒーロー、本当にありがとうございました。
金銭ではなく、わたしはあなたから、
世の中は、おもってるよりずっと温かいということを教えられました。
わたしも、世の中が明るいと思える人をたくさん増やせるよう頑張ります!
今日のひと言
『世の中、思ってるよりずっと素晴らしい』
※長女は本とアイスでご満悦でした。
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