こんにちは。
本サイトで、不定期連載中の『少年と怪物』ですが、更新がしばらく止まっておりました。
フルカラーさし絵小説『マカ・マニ・マカセ 〜怪物世界と吸血鬼の秘宝〜』の出版作業で、時間無いことが一番の理由ですが、もうひとつありました。
それは「読者のみなさま、それぞれのペースで読んでほしい」という思いです。
まず、ほかの娯楽よりも読書の敷居が高い何よりの理由として、
「時間だけでなく、環境の確保もせねばならないこと」が挙げられると思います。
つまり集中できる環境です。
それは、小説というものが五感を使うからに他なりません。
静かなウッドデッキで、すずやかな風に吹かれて、コーヒーと数枚のクッキーを横にページをめくる。
そこまでいかないまでも、一人になれるような静かな環境で、テレビやスマホを遠ざけて読むことが、条件となってきます。
(電車や喫茶店も読める環境にあります)
※「誰か」、もしくは「何か」が、読書中は接触してこないこと、というのが条件です。
五感を使うという意味は、このようなことです。
『舌ざわりのなめらかな餡子は、さわやかな甘さだった。「主人、お前の作るあんこはくせになるな」と、助右衛門は声をひそめて話しかけた。男が甘いものなど、聞かれたらみっともない』
これだけで、甘さや、舌触りのなめらかさを想像して味わわねばなりません。それだけでなく、情景を想像することも必要です。
もう一つ。
「サアッと降っていた雨が、森に入った途端、ボツボツと、重い音に変わった。またそれは、進むにつれてポツポツとか、ポタポタに変わり、葉が密集しているかないかで、音が変わった」
肌の感覚(暑さ、寒さ、てざわり、痛み)、それだけでなく、悲しさや怒りなどの心の中、感情、
良い小説ほど、五感がフルに使われて、読み終えた後に、満足感や充実感だけでなく、いっしゅの疲労感さえあります。
つまり、家族や友人が話しかけてくる、あるいはスマホにお知らせがくる、これだけで集中が途切れて、もう、場面を味わい深く楽しむことができません。
(たいていは、本を置いてしまうのではないでしょうか)
メールを読む、あるいは誰かに返事をする、それだけのことでも、まったく別の小説の情景であんこの甘さを想像できるように、人間の脳はできておりません。
このような敷居があるだけに、他の娯楽とまったく違うメリットが読書にはあって、それが「別の人生を体験すること」なのですが、これは長くなるので、またどこかで。
長くなりましたが、「読書というものは、いったん集中したら、可能な限り持続させねば、面白さを味わえない」、「字面だけ追うのは全く面白くない」という特徴があります。
この点で、特にわたしは、「熱量」を大事にする作家であり、プロットのたぐいも作りません。
小説は、人生と同じ。
白紙から、自由に描く。
だからこそ、人生と同じで予想がつかなくて面白い。
こうしたことを考えた時に、ぶつ切りの更新が、スタイルに合ってないと思いはじめました。
ということで、
完全版を電子書籍で発売いたします。
※さし絵はございません。
少年と怪物を読んでくださっていた皆様、少々お待ちくださいませ。
とても長い物語で、ハマるまでずいぶん時間がかかってしまうのですが、
最後までお読みいただけた方には、必ず心に残る物語になっております。
引き続き、応援くだされば幸いです。
冴崎伸
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