「あ・た・ま」
北城恪太郎(かくたろう)さんという方がおられる。
元・IBMアジア・パシフィック・プレジデント兼日本アイ・ビー・エム代表取締役会長であり、
全国経済同友会の代表幹事から終身幹事になられた方であり、
いまは国際基督教大学の理事長をされている。
作家であるわたしは、謙虚さをとても大事にする一方で、
どんな偉い方であろうと年齢がうえであろうと、
生(き)のままの人間をみてやろうというような、
一種挑戦的な視点も持っているから、臆することなく、
格太郎さんとはなしたわけだが、これが本当に素晴らしい方であった。
小柄で、とても世界的な企業の重役であったとはおもえぬ柔和な雰囲気、
たいへん失礼な表現だが、縁側でネコをひざにひなたぼっこしているおじいさんといった方だった。
あたりさわりない世間話から、けっきょくは会場がしまるまで1対1で、お時間をいただいてしまうという、
ありがたくも恐縮することになってしまったわけだが、
ちいさな体から発せられる言葉のひとつひとつが、じつに強力のひとことにつきた。
わたしが「未熟きわまる身ですが、七転び八起であきらめずにやっていこうと思います」といえば、
スパッと即答で、
「99転び100起きだよ」とにこっとほほえまれ、
「格太郎さんが、いま力をいれていることはなんですか」ときけば、
「若いときからだけど、若い人をそだてること」とこれも即答。
(現在、格太郎さんはエンジェル税制をもちいて、若手ベンチャーに多数投資をされている)
竹を割ったような迷いのない物言いに感服させられ、
世の中には大した人がいるものだと思った。
たくさんお話をいただいたなかでも、格太郎さんが大事にされている「あたま」がわすれられない。
格太郎さんはIBM時代に、チームを率いてATMシステムを考案した。
そのおかげで、いまわたしたちはコンビニ等で、お金が引きだせ、便利になったわけだが、
それをもじり恪太郎さんは、
「ぼくがね、もっとも大事にしているのはあたまだよ。
つまり、あ(あかるく)、た(たのしく)、ま(まえむきに)。
これをいつでも大事にしてきたんだ。だからATMと名づけたんだ」
つまり、あ(あかるく)、た(たのしく)、ま(まえむきに)。
これをいつでも大事にしてきたんだ。だからATMと名づけたんだ」
たいへん素晴らしい笑顔だった。
鯉(コイ)でいえば住みやすい水、人でいえば居心地の良い環境といったところで、
明るかろうが暗かろうが、性格と環境が不一致であれば、人はその環境を去る。
明るく、楽しく、前向きにだけで、この世は割り切れないだろうが、
しかしこの話は、わたしの心にたいへんひびいた。
自分でも「前向きだなあ」と笑ってしまうこともあるわたしだが、
たまには愚痴をこぼしたくなるときも、
弱音を吐きたくなるときも、もちろんある。
しかしやっぱりわたしの根幹もATMだなと、格太郎さんにお会いし、あらためて実感した。
恪太郎さんの言葉をわすれずに、明日からも精進していきたい。
今日のひと言
『あかるく、たのしく、まえむきに』
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