経済同友会の東北ブロック会議にて秋田にいった際、
千本倖生(せんもとさちお)さんにお会いした。
auの前身である第二電電公社を、稲盛和夫さんと立ち上げた方だ。
電電公社(現NTT)の独占を崩そうとお二人で決意され、
喫茶店で稲盛さんが、千本さんに1500億の投資を決めたというから豪儀な話である。
またそのとき、千本さんは6畳のオフィスに秘書が1人だったというから、
どういう感覚なのか、ちょっと想像しがたい。
もっとも、稲盛さんに近しい方にお話をうかがうと、
「稲盛さんは1500億投資したと言ってる」とのことで、
いっぽう、千本さんのご講演をきくと、
「1000億ちょっとしか投資してもらっていない」とおっしゃられていたから、
実際にお会いすると超人ではなく、人間くさく、親近感のわく方だった。
(ただ、かもしでるオーラは凄い)
話はもどるが、
千本さんとほんの少しだがご挨拶する機会があり、わたしは、
「どうして電電公社の独占が許せなかったのでしょうか」と質問した。
千本さんは電電公社出身である。
つまり討ち果たそうとしている会社に、
長いこと勤められていた。
電電への入社は当時、京都大学卒の花形就職コースだったということだし、
電電時代、千本さんは大企業で働いているという誇りをもっていたそうだ。
ところが、それがアメリカ留学で一変したという。
大学寮に入り、敬虔なクリスチャンの青年と同室になった千本さんだが、
しばらくしたある日、
「日本でどんな仕事をしているのか」
そう青年に聞かれ、
胸を張って「日本で唯一の通信会社で働いている」とこたえたそうだ。
(黒電話の当時、日本に電話会社は電電しかなかった)
すると青年が顔をゆがめ、
「ダム! シット!」と吐き捨てたそうだ。
千本さんはとても驚いた。
いつも穏やかな同居人が、なぜそんな汚い言葉づかいをしたのか、忘れられない衝撃だったという。
そして千本さんは、独占という形態が、
社会に害悪をもたらすという価値観を知ることになる。
日本では、独占が悪になるという話は、
ほとんど無視をされているきらいがある。
学校でもあつかわれた思い出がない。
たまにニュースで独占禁止法という言葉をきいて、
「ああ、なんだかちょっと悪いことなんだな」と思うくらいではないか。
千本さんと話し、
一個の人間の価値観はじつに狭く、もろい面があると知った。
大企業のエリートのプライドといえど、同居人のひと言で変わってしまう、
それくらいあやふやなものが価値観といえる。
だから「あの人の価値観が理解できない」と
まるで絶縁状のごとき使い方を、よく耳にするが、
価値観というものは、もろくもあり、
それをもって、相手との一生の関係性を判断してしまうそれは、
たいへんあやういのではないだろうか。
価値観を強固とみるそれは、四角四面にものを見ることであり、
ともすれば価値観を決定的としてしまうが、
じつは流動性があって、変化するものだという視点は、忘れずにいたい。
価値観が合わない人は、己の盲点をついてくれる。
完璧な人間は存在しないのであって、
やはりそこには一理あるのだから、
なんでも学びにする心を持ち合わせていたい。
でなければ、衝突ばかりになってしまう。
国と国のように。
日々ニュースで流れる、国のいさかいを、
すこしでも嫌だと思うのであれば、
隣人の価値観を許さないのではなく、
共存に努力することで、
また一歩前に進めるのだとおもう。
今日のひと言
『価値観はあやふやである。振り回されない』
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