※表紙画像 Hannah Edgman
少年と怪物
四月
刑事4 〜赤光〜
「何から何まで、けったくそ悪い」本間は言った。
相原成子という発見者がしたのだろうが、目につきやすい配慮とはいえ、人間の爪が岩の上に丁寧に置かれているのは気味が悪かった。
「子どもの、ですよね」高田が言って、乾いた唇を舐めた。
「子どもの家出がどうとかって、言ってたな。その子のじゃねえといいが」
まだ殺人と決まった訳ではない。事故も獣害の可能性もある。
そう自分に言い聞かせつつも、殺しだろうなと思った。
そして、こんなことをやるクズは、またやるとも。
このまま収まったりはしない。
血溜まり、爪、何から何まで偏執的な憎しみがこもっているようだった。
昨今は、テレビをつけて数分もすれば、このような話にはいくらでもお目にかかれる。
だが、わが町で起こるとは、やはり信じられない思いだった。
「靴の跡は通報者のだけみたいだな。あとで靴を調べさせてもらえ」
「わかりました。これだけの血の量で、靴底に血がつかないなんてこと、ないですよね」
高田がそう言ったのは、犯人のそれのことだ。
本間は目をこらした。
見たところ、一種類しか見えない。
イカれた変態野郎は靴を履き変えたか、跡を拭きとったかする頭くらいはあるらしかった。
応援を待ったほうがよさそうだった。二十分もすれば続々とやってくる。
しかしそのあいだ、何もせずに待つこともできない。
手がかりを絶対に見つけてやる、そう思った。
「あそこだな。なんとか穴だったか。調べるぞ」
「廃穴です」
血の竜巻が吹き荒れたような光景の中、そこだけ規則正しい血痕があった。
一本の血の直線である。
その線は、現場と水を満々とたたえる大きな穴を結んでいた。
血は穴のふちで曲がり、水面で洗われていた。
犯人は事を終えると、この穴に死体を捨てたのかもしれなかった。
その場合、浮きあがらぬよう重しをつけて沈めただろう。
「ダイバーがいるな」
「浮きあがってこないですか」
「何日も経ってガスが溜まってパンパンになりゃな。そんときゃ三倍くらいに膨れあがって、肉親でも見分けがつかねえよ」
高田が穴のへりに膝をつくと、水に手を入れた。
「なんだ高田。なんか見つけー」
本間は言葉を飲みこんだ。
二十メートルほど先の水面、そこに何かがいた。
赤と黒の編み目、いや、まだら模様か。
水田に立つ竹のようにちょこんと垂直に伸びている。
水面の下はどうなっているのかよく見えなかった。
その赤黒く太い棒のような何かには、ゴルフボールくらいの大きさの、赤く光る玉が幾つもあって、本間はそれで気づいたのだった。
玉は怪しく、一定の間隔で点滅している。
鼓動のように、弱くなったり強くなったり繰り返している。
生き物かと思ったが、明滅は規則正しく、機械のようにも思えた。
よく見ようと本間が目をこらすと、そいつは沈んだ。
「刑事5 〜発見〜」につづく
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